後悔日和

わかりみ

さよなら、また今度ね『P.S.メモリーカード』(2013)

2010年に結成された男女混成4ピースバンドの1stフルアルバム。風変わりなバンド名はジョンレノンの雑誌インタビューに書かれていたアオリ文を引用したとのこと。

2012年「RO69JACK 2012」で優勝し、彗星のごとくシーンに登場した彼ら。ジャンクかつポップな楽曲を武器に、自主製作MVを量産していた彼らには初期の神聖かまってちゃんを想起させられる。

同年にリリースされた初音源の『菅原達也菊地椋介佐伯香織渋谷悠』(メンバーの名前そのまんま)は死ぬほどローファイで、爆音で聴いてたら耳がバカになるんじゃないかな?と思うくらいに音の棲み分けがめちゃくちゃな一枚だったけれど、本作は程よくジャンクさが抜け、聴きやすい音作りがされている。

このバンドが一筋縄ではいかない理由として、まずメンバーのキャラクターの濃さがある。やたらハイテンションでギターと鍵盤を行き来するボーカルに、長身でいつもジャージを着ているギタリスト。女性ベーシストはいつも半袖短パンでニコニコしているし、ドラマーはカエルの被り物をしながら演奏する。正直、キャラクターが多重衝突事故を起こしているのかと思うくらいに過剰だ。

そして、もうひとつの理由としてあるのが、ハチャメチャなテンション感のある日本語の歌詞。いくつか例を挙げてみる。

忌野清志郎をコントロールするなんてしちゃいけないことをしてしまいたい」(僕あたしあなた君)

「神々しい泉 ロック・イン・ザ・リッスン ずっと晒し、連邦 Better she is この肉ベタベタ 御茶ノ水 ぼくの大学生」(窓娘)

忌野清志郎をコントロールする、という言葉の発想が常人にあるか、そしてそれを歌詞にするかという問いがあるのなら、答えはおそらくノーだろう。しかし、菅原達也はそれをいともたやすく歌詞の中に放り込む。「窓娘」に至っては歌詞のど頭からこの状態だ。多分語感のみで書かれているのだろうけど、言語野狂ってるんか!と言いたくなる文章だ。

しかし、菅原の歌詞の本当の魅力はこのテンション感から来る圧倒的な「キラキラ感」にあると自分は思う。

「僕はいつだって風呂上がりのような顔で行く 銀行や携帯の支払いや全部二人で行きたい」(輝くサラダ)

月がきれいだなあ 星がかわいいなあ 財布なくしても 世界は素晴らしい!!」(僕あたしあなた君)

見てください、この圧倒的なキラキラを。文法や定型を超越して、矢継ぎ早に繰り出される言葉たちに、いつもやられてしまう。某所のレビューで「Base Ball Bear以来の強度のあるバンド」と書かれていたのだけれど、ほんとその通りだと感じた。

決して演奏がめちゃくちゃうまいバンドではない。だけども、このメンバーが放つキラキラ感はとてつもない。とにかく心から楽しそうで、わけわかんなくて、ぐっちゃぐちゃな笑顔みたいなそんなバンドが、さよなら、また今度ねの魅力なのだ。

惜しくも次作『夕方ヘアースタイル』(2014)のリリース後、活動休止を経て、2016年に解散に至ってしまった彼ら。解散後は音楽を続けるメンバーもいれば、一般職に就いたメンバーもいる。

個人的には、このメンバーが紡ぎ出す理屈や理論をねじ伏せるくらいのわけわかんないくらいなポップさをもう少し見ていたかった。

けれど、そのキラキラ感を出せるのはごくわずかな期間で、それをもしかしたら「青春」とか呼ぶのかもしれない。奇跡的なバランス感によって成り立っていたバンドだったし。けれど、このミラクルは音源の中では不変だし、今日もプレーヤーで誰かがこれを聴いているんだろうなあと考えれば、まあ、このキラキラ感は不滅なんじゃないんすかね。おわり。


P.S.メモリーカード

P.S.メモリーカード